映し出される台湾史の闇、ホラーゲーム『返校』をレビュー

『返校』はRedCandleGamesが開発しSteamで配信されている台湾のホラーゲーム。
1960年代を舞台に知っているようで知らない台湾の闇ともいうべき歴史を描いた作品です。

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『返校』ゲーム本編より引用

 10月27日から日本語対応が開始されるようですが、プレイしてみた感想をざっくばらんに。
ネタバレを含んでます。

『返校』とは?

1960年代を舞台にした台湾製のホラーゲームです。
Steamで配信されており、世界中のユーザーがプレイすることが可能です。PS4に移植される予定も出ているようですが…。

台湾では小説版がリリースされ実写映画の予定もあるなど社会現象と呼べる人気を獲得したようです。世界的にも注目されかなりのヒットを飛ばしているとか。

シンプルな操作と精神を消耗する演出

本作の操作は非常にシンプルです。横スクロールでマウスをクリックするだけで遊べます。
謎を解いていくことで物語を進めていく、所謂謎解きゲームになっています。

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『返校』ゲーム本編より引用

 グラフィックも日本のホラーとはひと味違ったおどろおどろしい雰囲気。見ているだけで精神がすり減りそうな不安感に襲われます。何が起きるか分からない静けさと幽霊が現れた時の激しい演出の緩急が神経と精神を消耗させます。

幽霊は退治することは出来ず息をひそめてやり過ごすだけしかできません。
しかも息を止めるのには限界時間があるリアルさにより、プレイヤーも息がつまるような焦燥感に駆られます。

非常に怖いです。同じアジア圏ゆえでしょうか、日本のホラーに似た精神を蝕む作品になっています。単純に動き回っているだけでも心拍数が跳ね上がってしまうほど…。怖い…。

映し出される台湾史の闇

台風の日、少年ウェイは授業中に居眠りをしてしまい目を覚ますと誰もいなくなっている。薄暗い校内を彷徨い、体育館で少女レイを見つける…。というストーリー。

1960年代が舞台で学校の風景もどことなくノスタルジックな感じです。
ですが本作は単純なホラーゲームではなく台湾史の闇を描いているのです。

当時の台湾は国民党による厳戒令が敷かれていました。40年近くにわたり白色テロが蔓延していた暗黒期。
簡単に説明することのできない時代が台湾にはあったのです。

国共内戦に敗れた国民党が台湾に逃れ、1949年から87年の長きにわたり国民党による独裁支配が続きました。

当時は米ソ冷戦下ということもあり、中国大陸は共産党が実権を握ったこともあり台湾は米国側とされていました。こう聞くと自由主義な感じに思えますが、台湾では言論、出版などが弾圧されていたのです。

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『返校』ゲーム本編より引用

何もしていないのに突如罪人として弾圧され投獄される…。共産主義者ではないのにそのレッテルを貼られたり、反政府的だとか様々な理由で投獄され拷問される時代があったのです。民主化運動も弾圧の対象だったようです。

教育機関も監視の目から逃れることが出来ず、何か怪しい言動があれば学生であっても投獄は免れない…。そんな暗黒期が存在しました。

そのおかげで台湾から国外に逃亡する人もいたようですが、冷戦下の影響で台湾における弾圧は西側諸国では受け入れがたかったようです。

『返校』はそのような台湾史の闇が盛り込まれています。
記憶の一部を失ったレイが物語を進めるうちに記憶を取り戻していく。
彼女が学校で一体何をしていたのかが暴かれてゆくのです…。
弾圧、強制連行…。そういった闇が徐々に明らかにされ、自身の犯した罪を知ってゆく…。

あまりにも悲しく、そして外国の人があまりにも知らなさ過ぎた台湾の歴史が描かれており非常に考えさせられる作品になっています。

現れる幽霊は息をひそめてやり過ごすしかない…。
幽霊は弾圧された人々で、息をひそめるというのも弾圧という真実から目を背けるというような意図があるのかもしれません。

上質且つ社会性に富んだ傑作

ホラーゲームでありながら台湾史の闇を臆することなく描き切っています。

蝕むような恐怖感と恐怖の歴史が心にぽっかりと穴をあけてくるのです。
是非ともプレイしてほしいです。

厳戒令の台湾で起きた弾圧がどのようなものだったのか、隣国の知られざる歴史を理解することが出来るある種の歴史教材ともいえる傑作です。

『返校』はSteamで配信中。

redcandlegames.com