ちょっとヘンテコな怪獣映画『シンクロナイズドモンスター』をレビュー

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『シンクロナイズドモンスター』予告映像より
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ちょっとヘンテコな怪獣映画が現れました。
発想が中々面白い。こんな怪獣映画があったのかと驚くばかりです。

ネタバレがあります。

怪獣映画の枠を超えた作品

突如韓国のソウルに怪獣が出現。甚大な被害をもたらした後突如として消え去ってしまう…。
実はその怪獣、アメリカの田舎町に住む女性グロリアの動きとシンクロしていた、というお話。

怪獣と自分がシンクロしていると気づいたグロリアはハングルでお詫びの文字を描き暴れない事を誓う…。
しかし、ソウルには巨大ロボットが出現。それはグロリアが働くバーの店主オスカーとシンクロしていた!
…と事態は予想だにしない展開を迎えます。

グロリアもオスカーも朝まで酒を飲んでいるダメ人間。そんな人たちが怪獣とロボットにシンクロしちゃう…。どことなくコメディチックな香りのする設定ですが、実は深い人間ドラマを描いた作品でもあるのです。

物語はグロリアとオスカーの対立構造となっていき、男女の差別意識や自身の弱さなど人間の持つ負の側面へと切り込んでいくのです。
二人の対立が怪獣とロボットの激突として描かれる。人間同士の対立が都市の破壊を招くという筋書き。

対立構造は現実世界の戦争などの争い事のメタファーに思えてきます。

ただ単に怪獣映画、人間ドラマとしても楽しめますが、そこにある深い物語を読み解いていくことでより楽しめる作品に仕上がっています。

発想の勝利

この作品はハリウッドを代表する女優アン・ハサウェイが出演していますが低予算で製作されています。

そのため怪獣が暴れる場面は少なくなっているのですが、それでも十分に怪獣映画らしい破壊を楽しめます。
人間と怪獣がシンクロするという設定を生かし、破壊シーンをシンクロする人間たちのシーンで演出しているのです。
ただ単に公園で足踏みするだけでソウルの街が破壊されていく…。そんな非破壊とも呼べる直接的でない破壊が盛り込まれています。

視覚的に怪獣映画らしい破壊を楽しめるわけではなく、想像力を掻き立てる演出で観客を楽しませる往来の怪獣映画とは逆転の発想。

逆転の発想がなんとも魅力的。
ただ足踏みをするだけで、コケるだけでソウルの街はどうなるのか…。想像すればするほど恐怖感がこみ上げてくる人もいるでしょう。観客の想像力に任せるという演出はとことん恐ろしいのだと感じます。

低予算ながら破壊はきっちりと盛り込む…。怪獣映画の新しい可能性を示し、まさに発想の勝利と言えるこの作品は必見です。